ヒートシンクの選び方(基礎編)

1. 熱抵抗とは?

ヒートシンクの選定で重要な「熱抵抗」とは、“熱が伝わるときの“抵抗“を意味します。ヒートシンクを選定するとき、採用するパワー半導体とともに、どんな形でどの大きさのものが良いかの目安になるものです。
イメージ的には電気回路における「抵抗」と似ています。世の中には熱が伝わりやすい物質、そうでない物質がありますよね。熱が伝わりやすい物質は熱抵抗が小さく、熱が伝わりにくい物質は熱抵抗が大きくなります。

熱抵抗の単位は 「℃/W(摂氏度/ワット)」 です。この単位は、1ワットの熱を伝えるときにどれだけ温度が上昇するかを表します。たとえば、熱抵抗が2℃/Wのヒートシンクでは、10Wの熱を伝えるときに20℃の温度上昇が起こります。

初心者解説!

ワット(W)とは?
電力の単位で、1ワット(W)は1秒間に1ジュール(J)のエネルギーを消費または発生することを意味します。
ヒートシンクの場合、半導体素子が発生する熱エネルギー(電力損失)を表すのに使われます。

電流I(A)、電圧(V)、電気抵抗R(Ω)とすると、

Wは、W=I×V=IR2=V2/Rでも求めることができます。


具体例でイメージ
熱抵抗を具体例でイメージしてみましょう。

熱抵抗の場合

  • 熱抵抗が高い:熱が伝わりにくく、物体が冷えにくい。

  例)プラスチック、断熱材

  • 熱抵抗が低い
    熱が効率よく外部に逃げるため、物体が早く冷えます。

  例) 銅、アルミ


2. 理解しておきたい3つの熱抵抗

パワー半導体内部で発生する熱を冷却するためにヒートシンクを通して空気中に熱が伝わる過程で以下の3つの部分で熱抵抗を考えます。

①ジャンクション(接合部)―ケース間熱抵抗:Rj-c[℃/W]

半導体素子の内部(接合部)から、素子のケースに熱が伝わるときの抵抗です。

  • 接合部の許容温度:Tj[℃]

この温度を超えると半導体素子が壊れてしまうため、このTjを超えないようにしなければなりません。
※一般的にはパワー半導体データシートに記載しています。

  • ケース表面の温度:Tc[℃]
  • この間の熱抵抗 Rth(j-c)=Tj-Tc/P [℃/w]
    ※ この値はパワー半導体素子固有のもので、メーカーがデータシートで提供しています。

②ケース-ヒートシンク間熱抵抗:Rth(c-f) [℃/W]

半導体素子をヒートシンクに取り付けた際、素子のケースから伝熱グリスを通してヒートシンクまでに発生する抵抗です。

この部分には「接触熱抵抗」と呼ばれるものがあり、接触面の状態や、伝熱グリスの使用状況によって値が変わります。
※ この値もパワー半導体メーカーが提供していることが多いです。

③ヒートシンクー空気間熱抵抗:Rth(f-a) [℃/W]

ヒートシンクの表面から、周囲の空気に熱を放出する際に発生する抵抗です。

  • ヒートシンク表面の温度:Tf[℃]
  • 周囲温度:Ta[℃]
    ※この値はヒートシンクメーカーが提供しています。
    当社製ヒートシンクもデータを取り揃えていますのでお気軽にお問い合わせください。

上記をまとめると、以下の式が成り立ちます。

Tj-Ta/P=Rj-c + Rc-f + Rf-a

3. 電気抵抗との比較で考える

少し難しかったでしょうか。熱抵抗は電気抵抗と比較すると理解しやすくなります。
電気抵抗は、電流が電線や回路を通るときにどれだけ妨げられるかを示します。有名なオームの法則と比較して考えたいと思います。

電気抵抗:R(オーム, Ω)
電圧(V)と電流(I)の関係は、オームの法則で表されます:

V/I=R​

熱抵抗:Rth(℃/W)
熱抵抗は、温度差(ΔT)と発生損失(P)の関係を以下の式で表します:

ΔT/P = Rth

つまり、先ほどの式を電気抵抗と比較すると、温度上昇ΔTは電圧V、発生損失Pは電流I、熱抵抗Rthは電気抵抗Rと対比して考えることができます。

電気抵抗の場合: V1-V4/I=R1 + R2 + R3 

熱抵抗の場合: Tj-Ta/P=Rj-c + Rc-f + Rf-a