ヒートシンクの選び方(自冷編)
目次
Toggle1.自冷ヒートシンクとは?
自冷ヒートシンク(自然対流式ヒートシンク)は、ファンなどの外部冷却装置を使用せず、周囲の空気への放熱のみで冷却を行う方式です。
放熱は主に自然対流と放射によって行われます。
自然対流とは?
発熱体の表面が温まるとその面に接している空気に熱が伝わり空気が温められます。温められた空気は熱膨張して軽くなり浮力を受けます。そしてその空気の流動により空気に伝わった熱も一緒に移動するので熱はこの流れに乗って周囲に空気に拡散していきます。この現象のことを自然対流といいます。
放射とは?
実はこの放射という現象のメカニズムを説明するのは少し難しいのですが、簡単にいうと赤外線や光、電磁波などによって発熱体の表面から直接熱が出ていく現象のことです。電気ストーブや太陽の熱が伝わる様子をイメージするとわかりやすいです。
設計時にはヒートシンクの形状、サイズ、設置環境が重要な要素となります。
2.自冷ヒートシンクの熱抵抗の特性
(1) 自冷ヒートシンクの熱抵抗
ヒートシンクは大きければ大きいほどヒートシンクの表面積が増えて放熱面積が広くなり、より熱が伝わりやすくなるため、熱抵抗は低くなります。
また、熱抵抗は発熱体の消費電力によっても変化します。
消費電力が増えると、ヒートシンクの表面温度が高くなり、それによって周囲温度との温度差が大きくなります。
この温度差が大きくなると、下図のように空気の自然対流が強まり、ヒートシンクからの放熱量が増加します。
そのため、熱抵抗(℃/W)の値は発熱量が増えるほど小さくなる傾向があります。
(2) 具体例で見てみよう。
例として当社製アルミヒートシンクUR110で説明します。
グラフの縦軸は熱抵抗「℃/W」、横軸は消費電力[W]です。L=100, L=150というのはヒートシンクの長さを意味します。
このグラフからもヒートシンクの大きさ(長さ)が大きくなるほど、熱抵抗が小さくなっていることがわかります。これは長くなった分、表面積も広くなり、より多く放熱ができるためです。
横軸の消費電力[W]は、増えれば増えるほど発熱量が大きいことを表します。より熱くなるということですね。
各長さのヒートシンクにおいて、消費電力が増えれば増えるほど、グラフが右肩下がりになっているのがわかります。
これは先に記した通り、より温度が上がると自然対流が強まり放熱量が増加するため、熱抵抗が小さくなることを示しています。
最後にグラフの見方を説明します。
例えばヒートシンクUR110の長さが100[mm]、ヒートシンクに取り付けたデバイスの消費電力が140[W]の場合、ヒートシンクの熱抵抗Rf-aは0.55[℃/W]であることがわかります。
3.計算に必要な熱抵抗値
(1) ヒートシンク選定に重要なジャンクション温度
ジャンクション温度(Tj)は、半導体素子の内部チップの温度を指し、デバイスのデータシートに使用温度の上限(絶対最大定格)が定められています。
これはデバイスの性能や信頼性に直接影響を与える重要な指標です。
ジャンクション温度が絶対最大定格を、瞬時もしくは定常時で一瞬でも超えるとデバイスが破壊するため、接合部がデータシートに記載のジャンクション温度の上限値を超えないように、ヒートシンクを選定する必要があります。
(2)理解しておきたい3つの熱抵抗(復習)
次は「ヒートシンクの選定方法 基礎編」の復習です。良かったらそちらものぞいてみてください。
上図のように、接合部(ジャンクション)で発生した熱はケース、ヒートシンク、そして空気中へと伝わります。その間、3つの熱抵抗を考慮する必要があります。図を見ながらじっくりとイメージしてみてくださいね。
①接合部―ケース間の熱抵抗:Rth(j-c)
- 接合部からパッケージケースへ熱が伝わる際の熱抵抗です。
- この値は通常デバイスのデータシートに記載されています。
②ケースーヒートシンク間の熱抵抗:Rth(c-f)
- ケースとヒートシンクの間にある熱抵抗です。
- この値も通常デバイスのデータシートや、デバイスメーカーのアプリケーションノートに記載されています。もしくはRth(j-c)とRth(c-f)を合わせて、接合部―ヒートシンク間の熱抵抗Rth(j-f)として記載されている場合もあります。
③ヒートシンクー空気中の熱抵抗:Rth(f-a)
ここで、Rth(f-a)=ヒートシンクの熱抵抗を計算により求めることで、ヒートシンクを選定することができます。
4.ヒートシンクを選定しよう。
(1)選定方法
①発熱量を確認する
まずは使用するパワー半導体デバイスと回路仕様から、1ヒートシンクに搭載するデバイスの消費電力P(W)を確認します。
消費電力の求め方については、パワーデバイスメーカーのアプリケーションノートをご参照いただくか、当社営業部にお問い合わせください。
② 周囲温度と許容最高温度を確認する
次に設置環境の周囲温度Taとデバイスのジャンクション温度の上限値:最大許容温度(Tjmax)を確認します。
Tjmaxはご使用のデバイスのカタログに記載しています。
③ 必要な熱抵抗を算出する
ヒートシンクの選び方(基礎編)で学習したように、熱の計算を行う場合、電気回路に置き換えると理解しやすくなります。以下の通り置き換えて考えてみましょう。
・熱抵抗Rth[℃/W]→電気抵抗R[Ω]
・消費電力P[W]→電流I[A]
・温度T[℃]→電圧V[V]
オームの法則V=IRと照らし合わせると以下の式が成り立ちます。
Tj - Ta = P × Rth
すなわち
(Tj – Ta) = P × ( Rth(f-a) + Rth(j-c) + Rth(c-f) )
Rth(f-a) = (Tj-Ta) / P – Rth(j-c) – Rth(c-f)
(2)具体例で考えよう。
① 発熱量を確認する
今回、半導体素子での消費電力P=100Wとします。
② 周囲温度と許容最高温度を確認する
設置環境の周囲温度Ta=50℃とします。
半導体素子のジャンクション温度の上限値:最大許容温度(Tjmax)と接触熱抵抗Rth(c-f)を
メーカーのデータシートやアプリケーションシートで確認します。
今回は以下の通りであったと仮定します。
ジャンクション温度最大定格値:Tj-max=150℃
モジュール熱抵抗:Rth(j-c)=0.3℃/W
接触熱抵抗:Rth(c-f)=0.1℃/W
③ 必要な熱抵抗を算出する
半導体素子の最大許容温度は破壊限界を示す値であり一瞬たりとも超えない設計が要求されます。そこで今回はディレーティングを10%とります。
Rth(f-a) = (Tj-Ta)/P – Rth(j-c) – Rth(c-f)
= (150×0.9-50)/100 – 0.3 – 0.1
=0.45 ℃/W
④ ヒートシンクを選定する
上記の計算より、消費電力100W時、Rth(f-a)=0.45℃/W以下のヒートシンクを選定する必要があることがわかります。したがって、以下のグラフより、UR110であれば200の長さのヒートシンクを使用することが可能です。
5.まとめ
自冷ヒートシンクの選定では、消費電力によって熱抵抗値が変化することを考慮することが重要です。
ヒートシンクの選定でお困りの場合は内山産業㈱営業部までお気軽にお問い合わせください。
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